日常エラー/薬指
信号が全部赤だから
どこにも行けないと少年が言う
じゃあ全部青だったら
どこに連れてってくれるのと少女が言う
乗客のいないタクシーは
相模湖まで走り次々に沈んだ
地下鉄が瞬く間に水没して
七色に光るアロワナが泳いだ
俺はガスコンロに咲いた向日葵と
冷蔵庫を貫いた竹とを見比べている
板の間を大粒の雨が打つ正午
屋根があったはずなのにと悔しがっている
景色は至るところで裂けて
ひび割れから青い眼が覗いているエラー
信号が一つでも青になったら
どこかへ行こうと少年が言う
あなたは信号がなかったら
きっとどこへも行けないと少女が言う
幾重にも重なり合った自転車が
隅田川を完全にせき止めていた
埼京線の線路を行くインド象の群れは
終点を見ることなく果てていった
どこへ行くのと尋ねる女の片眼だけ
俺を静かに刺すように見ている
降り続く雨が止んでいない未明
頭の奥で誰か笑っている
やっとのことでそこに辿り着いた俺は
ここはどこだろうと呟いているエラー
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