閉じた目で空を/番田
クのビキニを身につけている。青色なのは帽子だった。レンバンのサングラスをかけ、知らない街の人の振りをしていたけれど、誰でも彼女の姿形は知っている。生まれた場所も育った場所もこの村の大通りなのだから。浜辺には蟹が走り回って、白い泡だちを滑らかになめしていく。
波が寄せては返している。引いていくときに巻き上がっているカレイの形が見え隠れしている。大型ハマグリの楕円形が砂地に混じっている。
「俺にも楽しいことがひとつぐらいあったならなあ。」
細く長いのは海草の一種で、尻に根っこを引いていた。骨のように見えるのは発泡スチロールの輝きで、市場から運ばれてきた箱なのだろう。男は、魚の死骸は一体どこに消えていくのかと思った。強い波風が拭いている。口を閉ざしたまま、頭の中に数え切れない言葉を思い浮かべる。
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