閉じた目で空を/番田
「今は、眠ることにしよう。」
男は鞄に紙切れ一つ持っていなかった。男が持っているものといえばニューヨークへの航空券だけだった。男が行ける場所は部屋の中の片隅だけだった。窓を流れていく雲を見ていた。白い雲がいつもそこには漂っていた。白くない物体は手のひらを見た時の肌色だけのよう。緑色なのは木々。黄色はパイナップルとバナナ。鳥が飛んできては、飛び立っていく風見鶏の向こうを見ていた。
灰色の石ころが近くを転がっている。極彩色のパラソルの下を歩き回って、トウモロコシを買い、昼飯代を節約する。
「そのシャツはどこのブランドが作っているものなの?」
とすれ違う女の子から聞かれた。彼女は蛍光ピンクの
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