リカバリ/乾 加津也
 
男はリカバリされたパソコンをみながら
バックアップの大事さを思い知るはずだったが
じわじわと不機嫌になったあとは
海のとおくに浮かんでいるきもちになった

記憶は記録とおなじなのだが

ディレクトリ・ゼロ領域
花いちもんめの記録は
正誤をこえて耳鳴りをうむ
ほしいと言ったその足で
じぶんのいばしょをけり上げる

イデアを抱いてプラトンはねむる

触れてはならない恐怖で
あれから再生ボタンを押せなくなった男は
ループには鋏を
螺旋には劇薬を投じて拘束された
あつい珈琲のない社会に押し込められても
なにもかわってはいない

繁茂か 増殖か
継承か 誕生か
なみうつブローカ野はしぶきのひとつも光らせるが
こころがつめたく
これを凍らせるのがわかると
死図化砂と書いてしずけさと読ませた
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