誰も涙を流さない/薬指
数えきれない足音が
止まることなく行き過ぎる
結ばれないいくつもの視線は
風に舞う木の葉のよう
雑踏の中
交差点の真ん中
ここがどこだかわかっているのに
どこにいるのかわからなくなってしまう
暗い空に赤い風船が一つ
不安げに漂っている
行ったり来たりを繰り返してから
ビルの向こうに消えていった
どんなに手を伸ばしても
決して届かないものを
あとどれくらい知らなきゃならないんだろう
鮮やかに引かれた飛行機雲が
人知れず薄らいでいくように
優しく強く輝いていた月の灯が
朝焼けの中に溶けていくように
みんないつか一人ず
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