ロンドンパリ/耳野 亮
 
右目――人間

二つの共鳴する糸を だれも知らない
夜にそそがれる毒で
わたしがかたむいていることを知った
犬はそっぽを向いて わたしに「ナンセンス」の
意味を教えてくれた 現代(矛盾の世紀)
     「イノセンス」 と 陳列されたテレビからこぼれる が
     見て見ぬふりをしたわたしは人間だった
     サルトルだって“しゃし”だったんだよ と
わたしは
さっきの犬におしえてあげた


左目――色、詩

カラスがないている カラスは詩を読んでいる
「夕暮れの色、夕暮れの窓」
わたしはかたむいているので あやういから
笑って(それは悲しい演技だ) カラスと“見え方”を交換した
カラスは喜んで 太陽にかえった
      おとうさんがおかあさんをつついて
      啼いている ああ なんて貧しい色
      わたしに詩を読めというのか 
「青い息、黄昏に溶けて、ゆらゆらたちのぼる」
もっと読んで、もっともっと――

      カラスがないている





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