大好きだった海/寒雪
に行こうねと
もっとあなたの日常を
あなたから奪ってしまいたかった
そう言ったきみの言葉が
ぼくの気持ちから離れない
誰もいない海で
ぼくは誰に聞かせるわけでもなく
呟くようにぼくの暮らしを語る
あの時きみと約束した
ぼくの日常をきみに差し出すために
本当は
ぼく一人だけのじゃなくて
きみと二人で語らい合いながら
たくさんの日常を積み重ねていきたかった
たぶんきみは
そうやって語るぼくを見て
女々しいって怒っているだろう
自分でもそう思うよ
だけどきみよ
ぼくを許してほしい
ぼくがここできみと語り合うのは
きみを忘れないでいるため
少なくとも
ぼくの命ある限り
きみを忘れないために
ぼくはこうしてきみとの約束を果たすんだ
来年もたぶん
ぼくはここに来るのだろう
その時も
今日と同じような
穏やかな海を見せてくれると
ぼくはうれしい
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