単独行者の手記/草野大悟
 
 山岳部だった。山は眺めるものではなく、征服するものだと教わった。そのころ使っていたピッケルやハーケンなどが、刑務所近くに建てたバリアフリーの我が家の壁に、今でもぶらさがっている。

 四季を通じて日本アルプスの岩壁を登っていた。大学院一年の春、鹿島槍で、友だちを亡くした。雪渓を滑落していく彼を、ただ見つめることしかできなかった。パーティを組むことが怖くなった。単独行しかできなくなった。死の責任は、自分一人が負えばいいから。

日本アルプスから帰る駅には、あなたが、いつも待っていてくれた。駅前の食堂で、ビールを飲みながらカツ丼を食い、一ヶ月分のあなたの話に耳を傾けることでぼくの山行は終るの
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