咲の婿取り/salco
けて
つぶらな目玉もとうに溶け、
小びんびどもの棲み家になった
草鞋も脱げた足括りの縄、石の上
轡も取れて唇も取れた大口開けて
海神様の嫁御じゃーなく庚申塚で
逢引きしちょった源次の嫁になりたかったと泣いちゅうが(泣いているよ)
目の無い目から涙を流し
孕みたかったと虚ろの胎で悶えゆう
乳含ませたいと白い肋であがきゆう
何のあて(私)に咎あるろう、たとい潮の変わろうが
何のひとに幸あるろう、たとい腹の朽ちようが
此処は冷(ひや)いよ、此処は暗いよ、何も見えん
ひとりは厭じゃと縦波起こし、船へし折って
若いもんを真っ暗な御身の横座に引きずり込む
凪いじゅうが葉月の八日、
月の煌煌海原に照り映えゆうちゅうて
汀にも足入れよったらいかんぜ男(お)の子はよ
咲の口説きの届く日やき
太いもんはソレ婿じゃ、抱(うだ)いとくれ
こまいもんはコレ吾子じゃ、抱いちゃろと
ぐいと引きに来よるきね
へんこつ … 偏屈者
いきおいで … 帰っていらっしゃい
小びんび … 小魚
戻る 編 削 Point(4)