旅客/瀬崎 虎彦
葉を落とした木々のトンネルを抜けて
半島の北側を走る私鉄の
絶え間ない線路との軋轢を
心地よいささやきの様に夜毎耳にする
秋は未練を払い夏の毒素から解放され
今ひとたび人間を愚かにする静寂
それは沈黙ではなく、常に音は聴こえている
それは静寂であり表面張力に抗しきれない
惑うように車両を移る乗客が
向かい合って座る男女を目にする
男はタバコをふかし女は本を読んでいる
未来永劫螺旋のトンネルを抜けることはない
次の停車駅はどこですかと尋ねても
車掌は困ったように肯き返すだけなのだ
戻る 編 削 Point(2)