苛立ち/薬堂氷太
 
迸(ほとばし)るような闇を消す
脆弱(ぜいじゃく)な朝の光が 嫌い

せっかく隠すことのできた
僕の醜く霞(かす)んだ心を
いとも残酷に 曝(さら)け出す


朝焼けが憎い


妬まれるほどの才能を持ってして生まれたわけでもなく
努力を惜しみなく手に入れた高みから 愚民を見下ろす立場でもなく

只、気が向いたときに
虫食いと継ぎはぎだらけの上に立つ 人の心の虚栄のような

ビルの屋上から

交差点で いそいそ脈を打ち歩く

命を見下げているだけ

嗚呼 これほど情けないことがあろうか

自我を変えるを望むが 変える術を知らぬ
頭上を滑空する鳥を羨むが 捕まえる術を知らぬ
この高みから 飛び立とうにも 臆病が裾を掴む

やはり今日も 何も出来ず
歪むような陽光が 丸い背中から

朝を知らせるのか

繰り返しの日々へと 繋がる階段を
降りてゆく時に 気が付いたが

脆弱とは 朝の光ではなく
私の事 だったとは

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