まるでおだやかな宿命みたいに/ホロウ・シカエルボク
 





きちがいのきれいな歌声が
鞠のように転がる夜明けの街路
途切れた記憶が空気に触れて
朝露となってショーウィンドウでこと切れる
ぼくは眠れなかった
きちがいの歌声が聞こえたので
こうして出てきたのだ
あまり自慢出来ない衣服を身にまとって
はげしい雨の後の
世界はやさしいですか
かれはそんなうたを歌っていた
ぼくはそんなかれの音符に
よけいな記号を足さないように
気がけて一本違う通りを
てくてくと歩いていた
かれの声はきれいなテノールで
夜明けの街角によく似合った
きちがいだと判ったのは
きれい過ぎたせいかもし
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