わしらお互い楽しい/番田
労働者として 街を 歩けば
踊り子や営業マンばかりが 立ち止まっている
路地裏の方を 歩いていく
一円玉が いくつか 散乱していた
アスファルトの 全体に 淀んでいて
アメリカの 泥地から 持ち出された 財布が
金貨の 鈍い光を 閉じこめている
さびれた 路面電車のやってくる 坂の頂上を
カチリカチリと 音を立たせながら
金を切らした 旅人は 登っていく
堺から やってきたのだという 山男は
明日は 目黒に 場所をとってある
「楽しいもんだよ、俺も 若かった頃は
あんたと 同じようにさ、こんな 急坂でも
ああ なんとか、登り切れたものだったよ」
男は こんな風に 爆笑していた
漆黒の 歯を 見せびらかしていた
奥歯の 奥の方から 二番目には虫歯があるようで
一本の 神経を 摩擦していた
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