川のコトバ/殿岡秀秋
 
小学校から帰って
叔父に自転車の運転を習う
家には大人用しかない
「両足がとどかないよ」
「おれだってとどかないよ」
叔父は自転車のサドルから腰をおろして
片足しかとどかない姿をぼくに見せる

叔父が荷台を両手でつかまえて
倒れないように支えて
ぼくは自転車のペダルを漕ぎだす
旧日光街道を荒川放水路に向って進む

後ろは見えない
荷台を持ってもらっているはずだが
軽くなった気がする
もしかしたら叔父は手を離したのではないか
「倒れてしまうよ」
予感にからだが硬くなり
両手がもつハンドルがゆれる

叔父が走ってきて荷台を持つ
「今はひとりで漕いでいたよ」
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