火は緑/木立 悟
 


夜の灯りに染まり連なる
紅くにじんだ雲の前に
誰もいない建物がつづいていた
記憶と 事実と 交響と
淡く静かな流れに沿って



目に映る火と
映らない火の
かすかな距離が燃えあがる
空き地に落ちた光の日々を
抱きあげては抱きあげては
燃えあがる



髪の毛の水
髪の毛の月
痛みのない痛みを握りしめたとき
響きの行方の火は緑
ゆるぎないものは既になく
くちもとに触れる指はなく
火は火とともに夜を飛ぶ
ゆうるりとあおぎ見る目のなかの
幾すじもの軌跡とともに飛ぶ




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