おじさんはガンジス河のひと粒として/石川敬大
その身を削いでゆく
どこまでも
いつまでも
と、いうわけにはいかないのだ
だれであっても
どんなひとであっても
あげくの果て
使いものにならなくなった
と、お陽さまが
すまわれている天上に
召されてしまう
*
よごれた布になって戦場から帰っても
だれに愚痴ることなく
不平や不満ひとつ言うことなく
おのれのじんせいを
黙々と
ただ黙々とチビてゆくことをしつづけた
まったく
ガンジス河の黄土の砂みたいな奇跡のひと粒の生命を
鉛筆みたいに営々とくりかえしていった
人生訓など聞いたこともないが
笑みを絶やさないひとだった
ひとから頼りにされること
ひとにうしろ指をさされないこと
そんなひとの家こそ
大金はなくても営々と末代までつづくんじゃないでしょうか
と、和尚がほめあげたいっしょうだった
*
九十一歳
無念の死では
なかったはずだ
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