声/アンテ
 

カニュレが
奇妙な音をたてる
ベッドの手すりをわし掴みにして
言葉にならない声が
空気が
ぼくの内側にあって
膨張
ぼうちょう
塊になって
唇を割る

足に力が入らない
背後から抱え込まれる気配
ぼくは

手をのばす
口もとのプラスチックが外れる
指で涙を
ぬぐって


ぼくは確かに
彼女の名前を

視界が反転
看護士さんごと転んだと
わかるまでずいぶんかかった
あわただしい気配
差し出された手を払いのける
ベッドのフレームに掴まって
身を起こして
立ち上がる
呼吸器のチューブ
点滴の機械
ベッドのうえに
体を横たえて
ぼくを見ていた
ぼんやりと
でも
とても澄んだ瞳で
ヒナコちゃんはぼくを見ていた

唇が笑っていた


                 連詩「メリーゴーラウンド」 11



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