世界の終わり/Oz
 

顔中血だらけになり
ベタついた

感覚は研ぎ澄まされていた
周りには
その行動に対する
気配というものは無かった
それ故に
赤子の泣き声は
彼の為だけに
発せられていたことになる

狼は
急いでその場を後にした
状況があまりに上手すぎるのだ
感覚は完全なる安全を
腹は満たされ
外敵はいない
何より喰った対象は
人間であった

足が縺れようと
肌が切れようと
彼は走った
疲れなど感じなかった
疲れなどまるで感じることはなかった

彼は高い丘の上に出て世界の音を聞いた
虫の囀ずり
鳥の嘶き
猿の阿鼻
人の叫喚
雨の音
狼は吠えた

遠吠えは
空気を裂き
世界を包んだ

それは世界の終わりの合図だった
世界は何かしらの終わりを始めたのだ

狼は
それを感じた
だが
足を折り
その場で踞ることしかできなかった

沈黙を
抱いていると
その熱が冷めることは無いだろうことに気付く
きっとそれは
世界が静かに終わり始めた時でさえ
最後の砦のように
熱を放ち続けるのだろうと
そう思った
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