僕は雨を待っていた/きりえしふみ
 
僕は雨を待っていた
長い間砂漠となっていた心の中で
僕は 『欲しい』と口にしなかった
涙だけを糧に過ごした
黒いインクにそれを混ぜて
別の夢を紙上に起こした
別の夢想を組み立て 陳列した
観客にさえ その飢えを口にせぬまま

もう長い間僕は夜を待っていた
四六時中明々とした書庫や木漏れ日の中に隠れて
光の彼方の夢とねんごろになった
秘密を頑なに押し殺したまま
恋人となると 接吻した

 飛翔したい分
 落下をしたかった
 ……誰かの手のひらの上へ

 身軽になりたい分
 引き込まれたかった
 ……知らない誰かの瞳の黒き闇の中へ

僕は願いを口にしなかっ
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