君のアパート/草野春心
 


  六月の光が君の
  最後のてのひらで混ざって
  うすぐらい雨になって
  降りしきった
  君の小さな声や
  僕のくだらない夢は
  もう誰にも
  聞こえたりしなかった



  八月の自販機に
  百二十円を入れたとき僕の
  心臓のなかで君が
  降りしきった
  聞きたくもなかった言葉や
  聞きとれなかった言葉が
  死ぬほどたくさん聞こえた



  世界のどこかには
  まだ君の
  うら寒いアパートが立っていて
  誰かがそのそばでタバコを
  踏み消しているだろうな
  まだ君のアパートの近くには
  ファミマがあるだろうな
  誰かがそこに行って
  コンドームを買っているだろうな
  君のために



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