真夏を待つ/橘あまね
 
雨を聴くひと
土を嗅ぐひと

奏でられる調べには限りがある
奏でられない調べを夢にみすぎて
からだを置いてきた場所を
遠ざかってしまう

胸の奥には想像上の内臓があって
白いバラ線にからみつかれたまま
土と液体をやりとりしている
ときどき太陽がこわくなるのは
きっとそのせいです

重さを逃がすことができない
支えきれないので
横たわる
役立たずの骨格なんかなくなってしまえばいいのに
そうしたら
雨と土だけを糧に
本当のからだをつくれるのに
青色に向かって成長するからだを
ずっとほしかった

青色のむこうをぼくは知らない
越えられないへだたりの
むこうがわを知らない
何があるかしら
しあわせな人たちがいるかしら
古い思い出をひろえるかしら

真夏の予感を浴びて
太陽を待つ
あのひとたちのようになりたい

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