地デジ対応/木屋 亞万
っ暗だ
朝の光が部屋に降り注いでいるはずなのに
明るい光は視界の隅でチラチラしているだけ
レンズの端からわずかに差し込んでくるだけだ
眼鏡が写す真っ暗闇に目を凝らすと
そこを砂嵐が舞っている
この眼鏡はもう使い物にならない
まだまだ使えたはずなのに
ずっと慣れ親しんできたのに
これは僕の目だった
雨の日も風の日も
気持ちの良い晴れた日も
僕の耳から鼻へぶら下がっていた
僕の汗を吸い、涙を吸い
僕とともに年老いて、汚れてきたのだ
妻が部屋に戻ってきた
「新しいのを買いに行きましょう」
「新しいのはいらないよ」
そう言いながら眼鏡をはずし耳にかける部分をじっと見る
「これ、どうしようか、壊してしまおうか」
フレームにぐっと親指をかけたけれど、力を込めきれなかった
眼鏡を外したまま妻の顔が見える位置まで近づくと
鼻がぶつかった
そのまま不恰好に唇へキスをして
泣いた
これからは自分の目で世界を見る
僕には目の良い妻もいる
それから
はっきり見えなくても
空はとてもきれいだと気付いた
。
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