夫婦極道/salco
 
 ―落語家 三代目雲流亭祥月(出目金もとい)の草稿より―

 
 大門の手前で探るは懐具合と肚の裡。緋襦袢めくろか賭場で摩ろうか、
踵返して暖簾で正体無くそうか、それとも暫し。と四歩の間を行きつ戻り
つの父であったそう。
 運命のいたづらの何であるかも知らぬげに、そこへ通りがかった女学生
が母でありました。下谷のばあさんへ煮物届けた空鍋提げて、後れ毛さえ
も垢抜けぬ、頬のふくれた生娘だったとか。
 時は昭和六年、師走の宵の口。勇ましい夢を見て、世相もそろそろ殺気
立ってをりました。

チョットお嬢さん、実は困ってをるのです

どうなさいまして

 不案内な道に迷うて
[次のページ]
戻る   Point(4)