黄昏/mac
早く帰ろう
そろそろ日が暮れる
日が暮れるのと電灯が灯るのの間の時間が
私はあまり好きじゃないのだ
足早に急ぐ私とすれ違いざまに
「○○さん」
「ああ、こんばんわ」
夕暮れの逆光でその人の顔は見えないが
私の名前を知っているのであれば
知り合いだ、ということになる
だから嫌だったのだ
すれ違っても誰か判らない
顔が判らないまま
会話が続く
「この前はどうも」
「こちらこそ」
「その後どうですか」
「元気にしています」
「それはよかった、心配していたんです」
「ご心配おかけいたしまして」
「ではこれで」
「お急ぎのところお引止めいたしまして」
「いえいえ、もう急ぐことは無いんですがね」
「はあ」
その人は行ってしまった
辺りはもう暗く電灯も点き始めた
どこかから懐かしい鼻歌が聞こえ
はっとして振り返る
そうして永い間深い所に沈めていた
涙が再び込み上げてきた
誰そ彼は・・・
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