トーキョー/望月 ゆき
って、赤く尖った先端を
眺めていた。長い鬼ごっこの、まだ途中。
笛を鳴らして歩く、豆腐売りの、失くした
左腕は、深い土の底で今も、リヤカーを引
いている。そういえば短距離走が得意だっ
たっけ、と思い出して、すこし笑う。立ち
上がるけれど、纏足をほどこした足は、う
まく歩くことができない。
あらゆるものは、この場所に偏在している。
灯り、富、思想、二酸化炭素、罪。低い周
波数で、ラヂオの電波が、底辺を這う時、
空で、テレヴィジョンの電波は、進路を忘
れる。道があるばっかりに、わたしたちは
しばし、迷う。目印を限りなく淘汰してい
くと、時代からわたしたちが消える。
*『詩と思想』7月号掲載。}
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