修善寺狂想/殿岡秀秋
 
狩野川台風で橋が落ちたために
駅からタクシーで大まわりして
修善寺温泉街にはいった
九歳のぼくは父と母に連れられて
和風の大きな旅館にはいる

玄関をあがるとすぐに大きな池がある
池の周りを林と日本建築が囲んでいる
台風で倒された木が逆さに落ちて
根っこを髪にした仙人が池に立つ

千住神社にあるのと似た能舞台が
池の水につかって
鶴の脚を立てている

緋鯉や真鯉が
青緑の水の中を
悠然と泳いでいる

ぼくは別世界にきた

部屋へとおされると
どのお風呂にはいってもいいといわれて
ぼくは手ぬぐいをもって
池にそった長い廊下を走る
ひとりで内風呂や露天
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