梅雨/ryou
 
今年の梅雨は
ながく暗く
何もかも腐らせてしまうまで
終わらないようだった

水道の蛇口をひねると
締める直前に
白いクラゲのようなものが
ぬるりと出てきて
コップの中に浮かんだ

ベランダに出て
廃材が散乱する崖下の空地に
コップの中身を捨てる

振り返ると
部屋にはすでに明かりが点いており
明かりの下で
なつかしい人が裁縫をしている

私は声を上げる
しかし声は届かないようだった
ベランダのガラス戸に手をやると
なぜか鍵がかかったように
動かない

ガラス戸を何度たたいても
何度その人の名を呼んでも
その人は
ただはにかむような笑いを横顔にうかべ
うつむいていた


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