轍は白いミミズ腫れで ーー作家Tに/石川敬大
 



 白紙の畑がひろがっている
 一本道をゆく
 と、ポツンと
 巨大なショッピングセンターがある
 集合住宅のコンクリート塊が墓標のように、山塊のように建っている

 そんな
 農村の荒廃した
 印象的な光景が戦後のある時代をよく表現していた
 はしりつづけてきた
 ぼくたちは
 その更地に
 鎌首をもたげる蛇口として孤独だった

     *

 すでに両親はなく、姉たちとわかれ
 この河畔の土地で
 錆がうく鉄橋として生きてゆかなくちゃならなかった

 そのさびしさが、瞳に宿っていた
 だから
 はじめて相まみえたのに
 あんなにも親しげに語りあえたのだ、まるで
 肉親の再会であるかのように

 まさか
 あの日、あの時が
 ただ一度だけ許された談笑であったなんて
 だれが想像できただろう

     *

 愛用のカメラ片手に
 取材旅行にでもゆくみたいにたちさっていった
 その背中に
 ばんかんの思いをこめて
 兄貴
 と、ぼくは
 呼びかけたかった





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