イン・ザ・キッチン/水川史生
鮮やかな発色に濡れる君の手を噛んでいるだろう午前三時のキッチンで所在をなくした鋏がひとつまたひとつと果物ナイフの刃を研ぐ未然形───。A4サイズの俎で黙った鯉が赤く焼かれる前に祈りを探している。
僕は電子レンヂで加熱されてからそよぐ
曖昧に溶けるようにしてそよぐ
忘れてしまって容易いからと白湯に指先を浸してそよぐ
積み上げられた白く丸い月の数々に
君のいくつかの溜息が滑って 落ちた
ワインボトルで掬って 隅で眠り込むまでのあいだ
その両手で優しく 僕を刻むように抱いてくれ
(銀色、と呟く僕の音を
君が直線のプロパンガスで焼失する
意識の外に逃げたフォークとスプー
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