月の晩には/salco
たセルロイドの顔の
目玉の無い目から涙を流し
寡婦達は二度と来ない昼間を想い、
窓辺の老婆の耳の中で、
壊れたオルゴールの蓋が開き・・・
月の晩には街の空をテレビが飛ぶ
接続されぬ無重力の画面には各々の
失くした物が写っている
「うちの子はいませんか」
月経もとうに絶えた母親が胎盤を引きずって
産院の戸という戸口を訪ねて回る
月の晩には月の晩には
切り取られた白い乳房が
食卓の上で水蜜桃の香りを放ち
故郷の森に咲く淡紅色の下がり花と
交信を始める
誰にも聞こえぬレコードが
動かぬターンテーブルの上で回り出す
{引用=Leise flehen mein
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