月の晩には/salco
 
月の晩には誰も知らない小さな島が
沖の静かな呟きの上に姿を現わす
まるで忘れ去られた溺死の骸が
呼ばれて浮上したように

月の晩には紅い魚が青いヒレで
黒曜石の水をかき回す
眠る白砂が舞い上がり、それから幾千の
卵がそっと隠される

月の晩には尖塔の上で誰かが鳥になり
手紙を残してどこかへ消える
捨てられた女は独り寝のベッドで悶えて狂い
経血で染めたドレスで街をさ迷う

月の晩には砂浜の波打ち際で貝殻が
遠い日の思い出を音も無く唄い出す
街外れのゴミ捨て場では踵の折れた
白いパンプスが発光器官の熟成を進める

月の晩には打ち捨てられた人形が
風雨に溶けたセ
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