冷める部屋にて/水川史生
 
コンタクトレンズを入れる君の傍で 
シンクに水を溜める音が響いている 
悲しければ、と呟けばそこに 
光るものが、あっただろうか 
歌え、と促す君の指に 撫でられるようにして浮遊する 
陰りもなく 
声は 今 許されたかのように 
遠くの塔で誰かが飛び降りたのだろう 
あやまたずして放たれる いつしか 死んでしまう 
一枚ずつ白い陶器を水に晒して 君は 
穿たれたら、と嘆く 
キーボードをたたく 
キーボードをたたく 
君があれば、歌え、と心臓を掴む 
夜に沁みいるようなリズムで 吠えたなら憂鬱は無いけれども 
滔々と継がれる優しいものたちに 
涙できるような そんな製図が 
テーブルに広げられている 
ランプ 
赤色灯の思惑 
飽きることなく繰り返す君の 君の 手 
喉を掻いては惑う骸に 
投げ込んだ花束が枯れた 
重ねたところで戻らないのは、電飾に暮れた塩梅だろう 
午前二時のダイニングテーブル 
覚めた静物の乗るその四角では、 
花の散るのに任せている
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