月下美人/三田九郎
語らう
あるいは不意を突いて現れる新聞の集金員と
暑いっすね。暑いよね〜。
希薄な関係性のさざなみを漂流していると安心する
どんな人の目も、私なんかに向いてないと確信できる
錯覚や誤解や無関心に満ちていて乱気流が凪いでいく
あらゆるズレが私の自画像を組み立てている
分かり合えるという慢心に窒息しそうだったんだ
陸に叩きつけられたお魚、苦しそうだね
いのちを見失った霊長類の王様は脱獄できるの
(あ。これおいしいんだよね。)
誰かの思惑で行くはずだった宇宙に行けなかった万物の種子
私を見つめる私を叩き潰して、鏡の中から芽を出すんだろう
永遠の眠りが待ち遠しい、そんなものがあるのなら
またね。また。
馴染みのバイトに別れを告げて
こんな時間にアクセルを過剰に踏み込むタクシーの運転手
禿げ上がった頭で、あんたは何から逃走してる
月下のアスファルトが妖しく光る帰り道の瞬間
ダイブしたくなる衝動を口で転がす
真夜中の冷たい路面
このきらめきがたまんない
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