夏至の夜/佐々宝砂
悲鳴 何かが落ちて壊れる音
蹴破られるドア
あなたは盗賊の襲来に驚いて
肌身はなさず身に付けているはずの
愛用の剣をとろうとする
でもそれは見つからない
見つからないの
だって今夜は夏至の夜なんだもの
あなたはベッドサイドの椅子を盾に応戦する
盗賊たちの松明の炎が椅子に燃え移る
盗賊の剣が振り上げられる
振り下ろされる
そして血飛沫が
ああ神さま
あのひとを助けてください
助けてください
神さま
夏至の短い夜は明けて
宿のおかみさんが礼を言いながら
あなたの肩の刀傷に膏薬を貼る
わたしはあなたの膝のうえで
ふたりの会話をきいている
そういえばあんたの部屋に女がいたって
盗賊が言ってたけど
あんた女を連れ込んだのかね
おかみさんがほんの少しとがめる口調で言う
いや何かの見間違いだろうよ
俺の恋人はこいつだけさ
あなたは磊落に笑って
血の染みをふきとったばかりの剣にくちづけする
物言わぬ一本の剣に
二度とふたたび人の姿には戻らぬわたしに
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