夏至の夜/佐々宝砂
夏至の夜なのに
どこかでバンシーがすすり泣いている
火のように赤いときくあの瞳は
いま誰のために濡れるのだろう
夏至の夜なのに
不安が両肩におちてくる
夏至の夜
神さまにお祈りしないでいる限り
一年にいちどだけ
人の姿に戻れる一夜
安宿の硬そうなベッドのうえ
軽く寝息をたてるあなたの額を
そうっとなでてみる
いつもはできないこと
今夜のわたしにはできること
あなたの必要なものになりたかった
あなたの役に立ちたかった
あなたのもとに寄り添っていたかった
でも渡りの傭兵を村にひきとめておけるとは思わなかった
だからわたしは
あの夏至の朝い
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