その手に夕陽が溢れている/うめぜき
凍えた風が沈んでいる
店は仕舞っている北の街
凪いだ心の奥底で
ふつふつと涙が湧き出てくる夏
君がいなかった頃
この街で
僕は鮮やかな夕陽を見たんだ
それはぼんやりと
童話のようだったよ
僕は君よりも早く生まれて早く死ぬので
君の物語の結末は見ない
この冷えた朝
窓越しに雨に沈んでいる北の街を見る
僕と離れて暮らして
君が全身で生きているこの街で
僕は鮮やかな夕陽を見たんだ
それはいつか君の胸に溢れて
君を童話で満たす
この街を君は童話に沈ませる
いいかい
迷わず誰かの手を握るんだ
大丈夫
きっと誰かが君の手の温もりを
探している
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