滝と月/吉岡ペペロ
が真剣に怒った
ふたりが余計に怖くなったそのとき
あ、滝の音、
え、どれ?
ふたりは立ち止まった
滝の音がすぐ近くにしていた
なんでいままで聞こえなかったのだろう
そんなどっかりとした音だった
うえ見て、
山道の空が見えていた
月に彩られた雲がカミナリのように割れていた
カワバタの横顔が青く浮かんだ
近くにはベンチが並んでいた
誰もいないベンチは誰かを待っているようだった
音だけでいいだろ、退散しよう、
引き返そうとして向きをかえようとしたらそのままヨシミは奪われていた
いつもより掘り返してくるようなキスだった
ヨシミが膝をアスファルトに落とした
うしろから胸を掻きしだくカワバタにちからで中腰にさせられてヨシミは下を見つめていた
行為の音だけが耳のすぐそばで聞こえる
そのうしろには滝の音
月のひかりでヨシミに影ができていた
ヨシミは月を見た
月が音楽してるみたいにたわんで揺れて、ヨシミは音の影を月にさがした
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