満ち足りている潮/
千波 一也
ひとは
潮の途中に
なにを聴くというのだろう
聴くという言葉は
はなはだ都合がよくて
かげかたちが整えば
それは素敵な
嘘になる
耳を聴く耳は
どこにあるだろうか
問うよりもまず
見えていないことが見えてしまっているのだと
勇気を風に
はなせばいいのに
満ち足りて、なお
満ち足りていきたくはないふりをする
赤子のような
ふしぎな
連鎖
それにあらがう
火がやさしいかぎり
海は
果てなく
海をひそめる
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