誰も嗅いだ事のないいかがわしい臭い/ホロウ・シカエルボク
手に入るというようなものではなかった
雇い主がどんなルートでそんなものを手に入れているのか男には疑問だった
が
それについてはなにも聞かないことにした
多分聞かない方がいいことに違いないのだ
男は路面を細かくチェックして
やり残したことはないと結論した
仕事道具をコンテナに詰め込んで
その上に座って煙草を吸った
仕事を早く済ませ過ぎたことに気がついたのだ
一服したら専用のごみ捨て場に行って
でかいカゴの中にこいつを放りこんでしまえばいい
財布の中にはいくら入っているだろう
煙を吐きだしながら男は空を見上げた
そこを通過する神の姿は見当たらなかった
俺にはビニール袋の中の女の瞳が見える
その瞳がまだ生きていて
どんなものを見つめているのか知ることが出来る
彼女と言葉を交わすよりもはっきりと確かに
そして俺は新しいフレーズに手をつける
誰も嗅いだ事のないいかがわしい臭いが
そこに漂っているのならそれでいいさ
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