影いろの世界/吉岡ペペロ
 
件はカワバタからだった

土曜の朝をそとに出た
曇り空だけれどまぶしかった
ヨシミはふと妙なことに気づいた
町には影がなかった
軒先から道にはみでたふぞろいな植木鉢にも塀したに置かれたごつい石にも電信柱にもまぶしいのに影がなかった
微風だけが耳のそばをすぎ生活の音がいじらしく聞こえていた
足もとをのぞいたらヨシミに影はなかった
しゅんかんヨシミの目に映るもの、ちがう、存在するものすべてがじぶんのカルテのように思えた
それはヨシミを自堕落で淫蕩な気持ちにさせた

歩道に乗り上げたカワバタの車を見つけた
ヨシミが屈みながらひょこひょこと近づいてゆくとカワバタの影がそれに気づい
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