生死の皮膜/吉岡ペペロ
 
近づいていったヨシミが叫び声をあげた
カラスが大きなくちばしでそれをやわらかく挟んでさらっていったのだ

ヨシミはこのことをユキオに話してみようと思った
メールを打つのはめんどくさかったから電話してみた

ユキオは広島にいた
出張らしい
ユキオの声を聞くとヨシミは小鳥とカラスの話を一気にまくしたてた
ポカンとしたメールをしていたわりにユキオはしっかりとした声で

それは自然界のいとなみだな、あ、車は自然界?

自然界、かあ、かあかあかあ、

ヨシミがカラスの鳴きまねをするのをユキオも面白がって

かあかあかあかあ、あした会いたいかあかあかあかあ、

あした?広島のあと高松に帰るんじゃないの、

おまえに会いたいな、

いいよ、早退してあげる、

ヨシミは家に着いたことをユキオに告げて電話をきった

靴をぬぎながら玄関の明かりを点けると電球切れで明かりが点滅した
それをヨシミはいま歩いていた会社からの帰り道とかさねていた
いま歩いていた道は会社からの帰り道ではないような気がした





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