[あるものねだり]/東雲 李葉
 
知らない言語を聞いている
彼が何を言っているのか、私には分からない
「大好き」かもしれないし
「死んでしまえ」かもしれない
「そこ空いてますか?」かもしれないし
「昨日のテレビがどうした」ことかもしれない

分からない言葉を読んでいる
その単語が何を伝えたいのか、私には分からない
「お母さん」を呼んでいるのかも
「赤く濁っていく雲」のことかも
「あの人が置いていったタイピンを捨てる女」のことかも
あるいは、会話と会話の間かも

私には知識がなく
経験もなければ信仰心もない
世界は果てなく広がる
海溝は澱みながら広がり続け
地球は少しずつ肥大していく
大地は気付かれぬように裾野を広げ
人類の成長に丈を合わせる

私には一冊の本しかない
でもそこからは
幾つもの道が、光が
矢のように伸びていて
果てなく音は広がっていく
そこに意味があろうとなかろうと

何もできないから何でもできると
世間は思ったよりも甘ったるいと
ここにないものはどこかにあるから
今からそれをとりに行こうか
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