気化してしまう液体なのだ/石川敬大
屈折率がちがうので
液体があるのだとわかった
ひんやりとした
理科室が好きだった
フラスコやビーカーやアルコールランプの橙色をしたたましいみたいな火
あれとこれとを
区分する
屈折率がちがう
言葉があるのだと信じていた
*
自転車にのって
さらに野瀬山にのぼって
走りすぎるブルートレインをみおくった
そうまでするからには
ぼくらの
こころのなかに
理想郷に対するあこがれがあったにちがいないのだ
ぼくは大学進学のために上京したけれど
いとこはどこにも行かなかった
あのあこがれは
かれのなかでどのように変質したのだろうか
かれはその後も、一言もそれについては語らなかった
そして
ぼくのあこがれもまた
東京でどのように満たされ
どのように変質してしまったのだろう
*
屈折率がちがうのだ
ぼくは液体なのだと思う
気化してしまう液体なのだと思う
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