なまえのない言葉/草野春心
 


  とうめいな言葉は
  とうめいな場所にたどり着く
  ぼくの言葉はぼくに
  あなたの言葉はあなたに向かう



  自殺者の言葉は
  ひえたアスファルトに砕け
  預言する人の不確かな言葉は
  不確かな水晶玉に浮かぶ



  なまえのない言葉はなまえを探す
  あちこち頭をぶつけながら
  なにもない暗闇をさまよいながら
  つまみ食いをする少年のように物欲しそう



  われに返ったふりをして
  ぼくはときどき思い出すよ
  そしてぎこちなく笑って
  結局はまた忘れてしまうよ



  恋をするとき
  死んだものを見るとき
  そこしれない光や
  闇を感じ、



  ぼくらのこころは
  なまえのない言葉にあふれてゆくよ
  それをつたえようとするとき
  なまえのない言葉は輝くんだよ
  なまえのないまま輝くんだよ




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