暮れない夜、覚めない日/霜天
 
駅前で
ギターで歌い続ける少年の
声を誰も覚えていない
ギターの音色が日付を越える頃
繰り返している月のかたちを
誰も答えられない
すっかり冷えきった自動車の
エンジンをそっとかける
誰も起きないよう
誰も起こされないよう


明日のかたちを
組み立てる夜
語ることは簡単で
夢見るには難解で


遠回りの犬の遠吠えが
ようやくで耳に飛び込んでくる
乗り越えてくる朝を
静かな瞬きで切り抜けながら
今日に居場所を探している
ギターの音色は
覚めないままで
始発電車の気配の中に
そろり
混ざり合っていく

届かない声と
忘れる日々と
暮れない夜は
いつまでも


語る夢は、まだ遠く
今はただ
暮れない夜の、その中に
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