[風邪]/東雲 李葉
 
人が多くて憂鬱だ。
さっきまで座っていたくせに、今はもう立っていたい。
依ってみたいが離れていたい。あんまり傍にいたくない。
感染させてしまうかも(誰か苦しみを引き継いで)。


真っ直ぐ立とうと努めている。
爪先から頭の先まで細い針金を通して。
錆ついた臭いが奥の奥で。
堰をすれば赤い痰。


みぎがわの出口をひだりあしから出る。
頼みごとははしから取り入る。
節々がきしんで腰が曲がる。
誰もまっすぐ前を見ない。


腹の調子がおかしくて乗らない電車をいくつも見送る。
人を顔で選んでしまう。
ボタンをひとつ押し間違えたら、
「うらんでしまう」
おお怖い。


汚いものを飲み込んでいく。醜い人になっていく。
もう、何が何やらわからない。
微熱が徐々に重力を奪う。


扁桃腺が腫れていてかすれた音しか届かない。
現在地が分からない。視界は水に落ちた時のよに。
苦い薬なのにきかない。辛い言葉ばかりきく。
アナウンスが遠くで聞こえる。

「通過列車にご注意くださ
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