アリゾナ/salco
を毎年登る遺族達がいる
あの尾根の真上に天国があるのなら
あの人達は迷わず梯子を造るだろう
そして登って行くだろう
だがあそこは昇魂の地ではない
煉獄へ投げ込まれた無辜の絶叫が
消え果てた場所なのだ
彼らはせめてその地獄に近づきたくて行く
小枝に引っかかった無数の肉片が
紅蓮の火影に揺れていた静寂の中へ、
愛する者の無念を拾いに行くのだ
拾っても拾っても尽きぬ断片を拾いに行く
それが追憶の中だけに閉じ込められた、
理不尽に存続の権利を断たれた者の最期に接近する
唯一の手段だからだ
御巣鷹山 御巣鷹山 御巣鷹山
植物の親和性は静謐に在る
自然は恢復し地面は緑で覆われ
黒く爛れた往時の無残は何処にもない
ならば地面を撫でるしかないだろう
そこには誰もいない
ここには何ひとつ
ならば、人を
呼びながら虚空に涙を見せてやるしかないだろう
会いたい会いたい会いたいよと
言い続けるしかないだろう?
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