済州島4・3事件へのオマージュ/はらだよしひろ
 
りの悲しさが
  心を殺してしまうのです

  幼子はかすかな記憶に
  海辺遊びだけを留めていました

  父は殺されたのだと知らず
  五十年もの歳月 幼子は
  幼子の思い出だけを抱いて
  帰りたがっていました

  老は口を閉ざしたままでした
  育てた姪から
  思い出を取り上げませんでした

  立ち上がった者達を無くすため
  祖国の軍隊が自ら
  銃を持たない者を殺したのです

  聞けばその時畑を耕していたといいます
 
  幼子は父の顔を憶えていません
  残されたのは海辺遊びでした

  山で狩りをすればゲリラ
  海で貝を
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