辞書をめぐるお話 最終話/たもつ
少年は
旅に出た
真っ白なノートを
一冊持って
そのノートに
この世のすべての言葉を
すべての意味を
書くために
街には
言葉が溢れていた
朝には朝の
昼には昼の
夜には夜の
言葉があった
老人には老人の
子供には子供の
男には男の
女には女の
言葉があって
その一つ一つを
少年はノートに
書き留めた
森に行けば
鳥の囀りや
動物たちの鳴き声
木々のざわめきを
少年はノートに
書き綴った
少年は
異国に渡った
異国に渡る船の中では
乱暴な船乗りの言葉を
静かな海の
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