100円玉/izumi
おつりです、と言って手のひらの上に何枚かの硬貨を乗せた。
ぼくには分かっていたのかも。
その中にある100円玉が、ここから出たがっているのを。
その通りになった。
ぼくの手と財布をつなぐホースを上手く逃げ出して
100円玉はコロコロと、自分の想像通りに薄っぺらい身体を動かしていた。
「あっ」ぼくは100円玉を追いかけた。
薄っぺらいと言ったけど、ぼくにとっては重い。
100円玉は、ぼくの描く道を全く無視した。
コロコロコロと。
「生きてる」声が聞えた。
それは、ぼくに100円玉を渡した人の声だった。
ぼくは、すかさず「そんなこと、ここで言っちゃダメだよ」と心
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